koizumi 2012-08-23 10:04:54
前回に続き「遺産分割による代償譲渡」に関する判例と先例の論点を検討しましょう。
【問い】最高裁(最判平20.12.11)では、登記原因を証する情報の提供を欠くことを理由に却下した登記官の処分は違法であると判断されましたが、一方、先例(平21.3.13第645号)は、「年月日遺産分割による代償譲渡」とした所有権移転登記の申請は受理されないとしています。この2つの判断はどのように解釈するべきか?
解説は、次回第11回目の「3分間レッスン」(小泉司法書士予備校Facebookページ)で行います(8月22日UP予定)。 小泉嘉孝
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小泉先生、こんにちは。最初、この先例を見たときは驚きました。最高裁の結論が出て、そのすぐ後の先例であったので、当然今後は受理しますという内容かと思ったら、まったく逆の内容であったので、ずっと誤植かと思っていました(笑)。ただ、前回の先生の3分間レッスンを見て、大体論点が把握できました。
最高裁が登記官の却下処分を違法と判断したのは、「登記原因証明情報の提供を欠くことを理由とした却下処分」というところにポイントがあるのではないでしょうか? 詰まるところ、25条9号で却下した登記官の処分は違法であるが、25条5号(申請情報又はその提供の方法がこの法律に基づく命令又はその他の法令の規定により定められた方式に適合しないとき。)によって却下することは可能だというのが、先例の言い分のように思えます。
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hayate 2012-08-22 12:39:43
hayateさん、ナイスです! 登記原因証明情報としての適格性と登記原因の文言としての適格性は区別されていると考えるしかないですね。やはり、登記原因は、登記記録に反映され、まさに公示の対象そのものであるというところが大きな要因であると思われます。つまり、この登記原因によって、権利変動の過程とその態様が公示されるわけですから、それが過不足なく、かつ、具体的な事実又は法律行為でもって表現したものでなければなりません。そして、特に当事者間の「契約」により物権変動が生じている場合は、実際に行われたその契約の具体的内容までが特定されていなければならないと考えられています。そこで、本件においても、これが「遺産分割による贈与」を原因として登記が申請された場合は受理されると解されています(登研740号参照)。では、これらを踏まえて、「3分間レッスン」の解説を見てみましょう。 小泉嘉孝
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koizumi 2012-08-22 14:21:11
では、もう1つ、これに関連する平成24年度本試験記述式の論点を考えてみましょう。
これは、甲土地については、民事太郎と民事次郎の共有関係を廃して民事次郎の単独所有とし、その代わりとして、民事次郎が乙土地を民事太郎に譲渡するという内容でした。そこで、この乙土地の所有権移転登記の登記原因について、「年月日共有物分割による交換」とするのか、「年月日共有物分割による贈与」とするのかという問題が生じてきます。この判断に上記最高裁(最判平20.12.11)の理由が大いに参考になると思います。遺産分割の代償としてAからB・Cに譲渡される建物の所有権移転登記について、最高裁では、この「譲渡」の法的性質を検討する上で、その譲渡に関し、B・CからAに対して反対給付が行われるものとはされていない、よって、これは当該建物を無償で譲渡することを内容とするものである、と判断しています。つまり、この譲渡に対価的給付があるか否かがその登記原因を決定することになります。ここでは対価がなく、無償による譲渡であるので、上記のとおり「年月日遺産分割による贈与」とするべきですが、仮に対価的給付が存在する場合は、「遺産分割による売買」という登記原因もあり得ることが、登記研究740号P152で示されています。
そうすると、本試験における乙土地の所有権移転登記の登記原因を判断する上でも、やはり当該「譲渡」の法的性質から検討するべきだと考えます。つまり、単に共有物分割で民事次郎が甲土地を取得し、その代わりとして、民事次郎から民事太郎に乙土地が譲渡されるから、「交換」であるというのではなく、この乙土地の譲渡自体について、民事太郎から民事次郎に反対給付がなされているか否かで判断すべきだということです。しかし、本試験の問題の中では、この「譲渡」について、果たして民事太郎から民事次郎に反対給付がなされた否かについての記載は見当たりません。上記最高裁の事案では、遺産分割調停調書には、建物譲渡は、AのB・Cに対する代償支払義務があることを前提として、その支払いに代えて行われるものとはされておらず、その譲渡に関し、B・CからAに対して反対給付が行われるものともされていない、ということが明らかにされています。よって、本試験の問題の中では、この「譲渡」につき、反対給付の有無は判断できず、その結果として、登記原因は「年月日共有物分割による交換」又は「年月日共有物分割による贈与」のいずれであっても正解であると私は考えます。 小泉嘉孝
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koizumi 2012-08-22 21:05:56
乙土地の譲渡自体について、民事太郎から民事次郎に反対給付がなされているとすれば次郎は共有物分割の代償のほかに利益を受けたことになるのですか?不当利得になると思えるが
kuril 2012-08-23 05:25:57
kurilさん、こんにちは。代償として譲渡するのは、民事次郎から民事太郎へですが、おそらくkurilさんの疑問は、代償として乙土地が民事次郎から民事太郎に譲渡され、そこにさらに民事太郎が反対給付をするというのはどういった場面なのか?ということだと思われます。その典型的なものは、やはり過不足の調整であると考えます。たとえば、仮に民事太郎から民事次郎へ共有物分割で移転する甲土地持分価格が30万円とし、その代償として民事次郎から民事太郎へ譲渡された乙土地の価格が37万円であったとすると、そこに7万円の差が生じることから、これを調整するために民事太郎から7万円相当の腕時計を給付したというケースが想定されます。ただ、それが7万円相当の価値を有していなかったとしても、それを前提とした両当事者の合意に基づくものであれば、不当利得の問題は生じません。 小泉嘉孝
koizumi 2012-08-23 10:04:54