urachan 2014-07-27 08:43:15
乙は甲の所有するゴッホの絵を盗み出し、第三者に売却することを目論んで、事情の知らない丙に傷んだ箇所の修復を依頼した。
丙は修復作業を終えたところ、甲から絵の返還請求を受けた。丙は善意・無過失で乙から絵の引渡しを受けたことを理由として、甲に絵の返還を拒むことができるか?
答え;できない。
即時取得の対象となるのは所有権と地上権のみ
そこで質問です。
確かに即時取得はできないですが、留置権を主張して、引渡しを拒むことはできないのでしょうか?
この場合に丙が即時取得をすることができない理由は、乙は丙に対して修復を依頼しただけであり、所有権・質権・譲渡担保権を対象とする取引行為がなされたわけではないからです。
即時取得の対象となる権利は所有権・質権とされていますが、判例によって譲渡担保権も即時取得の対象として認められています。
ですから、地上権は即時取得の対象とはなりません。
また、乙が甲からゴッホの絵を盗んだということから、民法193条(盗品又は遺失物に関する即時取得の特則)なら当てはまるように思えそうですが、これはあくまで即時取得の特則なので、即時取得が成立しない今回の場面では関係のない条文なので注意してください。
次に、留置権が成立するかということですが、結論を言うと成立します。
留置権は法定担保物権なので、以下の留置権の成立要件を満たせば、契約関係などなくても成立します。
①その物に関して生じた債権であること(牽連性があること)
②他人の物を占有していること
③債権が弁済期にあること
④占有が不法行為によって始まったものでないこと
この4つの要件を今回の事例に当てはめて、丙が留置権を取得しているかを考えます。
①→丙はゴッホの絵を修復し、その修理代金債権を取得しています。
この修理代金債権は、ゴッホの絵という物に関して生じた債権と言えます。
②→丙は甲(他人)の所有物であるゴッホの絵を占有しています。
ここでの他人というのは、債務者と同一人物でなくてもかまいません。
ゴッホの絵の所有者は甲、修理代金債権の債務者は乙ですが、問題ありません。
③→はっきりと書かれていませんが、修理代金債権の弁済期は修理の完了と同時に弁済期にあるとされるのが通常ですから、弁済期も到来していると考えられます。
④→乙は甲からゴッホの絵を盗んだので、乙の行為は不法行為ですが、丙は修復をしただけなので不法行為はしていません。
よって、丙の占有は、不法行為によって始まったものではありません。
留置権の成立要件4つが全て満たされているので、丙は留置権を取得しています。
したがって、丙は留置権を主張し、留置的効力によって甲への引渡しを拒むことができます。
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g7tih 2014-07-27 12:00:22
詳しい説明ありがとうございます。
この問題は「丙は善意・無過失で乙から絵の引渡しを受けたことを理由として」と書いてあるので、留置権を主張していないから「絵の引渡しを拒めない」ということなのでしょうね。
urachan 2014-07-27 12:16:52