nekozamurai 2014-08-02 12:15:26
民法511条は「差押え後に取得した債権を自働債権として、差押えられた債権と相殺してはならない」旨の規定であったとおもいます。ところが、(最判平13.3.13)では「抵当権設定後に賃借人が賃貸人から取得した債権があって、この債権で、物上代位により差し押さえられた賃料債権と相殺することができない」旨の判例となっているとおもいます。
民法511条では「差押え後に取得した債権で相殺してはならない」となっているのに、この判例では「抵当権設定後に取得した債権で相殺できない」と言っているのですが、矛盾しているよに思えるのですが、私の勘違いでしょうか?
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裁判所では、具体的妥当性が求められる場面が多い。
ゆえに、整合性が軽視されることもありうる。
「具体的妥当性」とは、突き
詰めて言えば、そのような「法律の解釈」が具体的な紛争の当事者(関係者)2に関して「良い」ものである
べきだということである。例えば民事訴訟での裁判官の法律解釈においては「具体的妥当性」が強く考慮され
ると言われている。しかし、具体的な事件・紛争は、その当事者が異なることはもちろん、その事件が起きた
背景、状況なども、細かく見ればそれこそ千差万別であり、「具体的妥当性」を強く求めればそういった細か
25 な違いに配慮するということになる。そして、法律の解釈としては、そういった違いを反映できるように要件
を細かく細分化したり、さらには条文にない要件を付け加えたり、といったことが行われることになる(法律
の文言からは外れた解釈となり、文理解釈とは逆の方向へ進むことになる)。
一方、法律(の解釈)は、将来同種の紛争の当事者となる可能性のある一般市民にとって「良い」ものであ
るべきでもある。現実に紛争の当事者とはなっていない一般市民にとっての法律とは、「このような行動をす
30 れば法律上このように扱われるだろう(処罰される/されない、損害賠償義務を課される/課されない、な
ど)」という予測を立てて、自分の行動を決定するための資料である。従って、法律(の解釈)が短期間で変
わってしまっては予測が外れることになり不都合を生じるし、また具体的な事件の処理がその事件の細かな諸
事情によって変わるということになれば予測が立てにくくなるという不都合を生じることになる。逆に言えば、
法律(およびその解釈)は安定していてあまり変化がないこと、法律に関して確実性の高い予測が立てられる
35 ことが望ましいということであり、それを「一般的確実性」または「法的安定性」という。一般的確実性
(法的安定性)を強く求めれば、事件の細かな事情などはあまり考慮せず、画一的に法律を適用できるように、
法律の解釈としては要件を一般の市民にとってもわかりやすい形で、単純化するのが良いということになる
(文理解釈と同じ方向へ進むことになる)。法の下の平等が強く求められる行政法の分野や、刑事訴訟におけ
る有罪・無罪の基準3に関係する法律の解釈においては一般的確実性(法的安定性)が強く求められる
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senpai 2014-08-02 13:31:14
平成13年判例において争点となったのは、511条が適用される昭和45年判例の射程が及ぶか、さらに、もし射程が及ばないとすれば賃料債権に対する物上代位権の行使のための差押と賃借人による相殺の優劣の判断基準でした。
昭和45年判例の射程が及ぶか否かというのは結局抵当権者は一般債権者と同等の扱いになるのか否かということになります。
こう考えれば容易に結論は出ると思いますが、抵当権には特別の優先権がありしかも抵当権設定登記により公示されていれば、物上代位により抵当権の効力が賃料債権により及ぶことは簡単に想像できるので、賃借人による相殺が制限されても別段問題はないというわけです。
平成13年判例をもとに、賃料債権に対する物上代位権の行使のための差押と賃借人による相殺の優劣について整理すると
①抵当権設定登記(以下登記)②賃借人が賃貸人に対する債権を取得(以下取得)③賃借人からの相殺(以下相殺)④物上代位による差押え(以下差押え)の順番で事実関係が生じた
この場合は賃借人による相殺が可能
①取得②登記③相殺④差押え
相殺可能
①取得②登記③差押え④相殺
相殺可能(登記前に取得した債権だから)
①登記②取得③差押え④相殺
相殺はできない(抵当権者の勝ち)
このように511条の射程が及ばず一般債権者と抵当権者を区別した整合性のある結論になっています。
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bolza 2014-08-02 22:58:17
返信ありがとうございます
裁判所は一般債権者と抵当権者が同じ扱いなのはおかしいと思ったわけですね
それで結局、賃借人が勝つケースは「登記前の債権取得」又「差押え前の相殺」。
両方を満たす場合となるわけですね。
わかりやすくまとめていただいてありがとうございます。
nekozamurai 2014-08-03 10:23:51