司法書士の勉強中に発生する疑問を解決する質問広場

/平成27年 午後第25問

koizumi  2015-07-06 19:10:36

午後の択一第25問<不動産登記法-相続・遺贈の登記>(エ・オ)には疑義があるとされていますが、現時点での私の解説を入れておきます。

 

エ 共同相続登記後に相続人の一人が相続放棄をした場合になすべき登記は、更正登記か持分移転登記か、という論点ですね。

 当然のごとく「更正登記」であると、私も講義をしていますが、実は「持分移転登記」説も存在し、かつての先例(昭26.12.4第2268号 昭29.1.26第174号 昭33.4.15第771号)はこれを採用していました。

 しかし、その後の先例(昭39.4.14第1498号)では「更正登記」説を採るように至りました。これについては、旧先例は、昭和37年の民法改正前の先例であり、改正前は、相続放棄により他の相続人にその持分が帰属するという規定になっており、その関係で持分移転の登記になっていたが、現行民法では、相続放棄の効果は、最初から相続人でなかったのと同じ効果(遡及効)を生ずるのであるから、基本は更正登記ということになるという見解(体系不動産登記 藤原勇喜P804参照)が示されています。

 ただ、一方で「持分移転登記」説が、完全に否定されたと断言できるかというと、疑問は残ります。やはり引き合いに出されるのは、相続登記後に遺産分割がなされた場合です。

 同じく相続開始時への遡及効を有しているものの、遺産分割の場合は、先例(昭28.8.10第1392号 39.4.1第839号)で「持分移転登記」説が採用されています。遺産分割の場合は、遡及効よりも相続の時間的経過に従った登記の方向を志向しようとしている、つまり、少なくとも遺産分割がなされるまでは当該相続登記は正しい登記であったという点から捉えているといえます(高柳 登研397号・新訂 相続・遺贈の登記)。

 では、なぜ相続放棄は「更正登記」で、遺産分割は「持分移転登記」なのか?と問われると明確な答えはなく、そういう意味で、やはり相続放棄においても、「持分移転登記」説が成り立つ余地は一応あるといえます。

「相続の放棄を登記原因とする」という問題の文言についても、昭33.4.15第771号の中で「登記原因を甲、乙、丙の相続放棄」とすると示されているので、その点では問題はありません。

 また、「Bが作成した相続の放棄を証する書面を提供して」という部分に関しては、これが「相続」を原因として相続人から単独で所有権移転登記を申請するのであれば、もちろん「相続放棄申述受理証明書」である必要があり、私人作成の書面では認められませんが、ここではいわゆる相続登記を申請するのではなく、共同申請による持分移転登記であるため、その点でも問題はないものと考えます。

オ 特定遺贈を受けた者のうちの一部が当該遺贈を放棄した場合に他の受遺者に対し、遺言者から遺贈を原因に直接所有権全部の移転登記が申請できるかという論点ですね。

 これに対して直接述べた文献等は、現時点で見当たりませんが、参考になるのは、下記の登記研究です。

相続人のいないAが、「甲不動産をBに遺贈し、その他一切の財産をCに遺贈する」旨の遺言をしていたが、Aの死亡後、Bが当該遺贈を放棄した場合は、当該甲不動産をCの所有とする所有権移転登記を申請することができる(登研753号参照)。Cへの遺贈は、遺言者Aの財産のうち、甲不動産を除く「その他一切の財産」を目的とするものであり、包括遺贈と解され、一方、遺贈が放棄された場合は、遺言者が特段の意思表示をしていない限り、遺贈の目的物は相続人に帰属する(民995)ことから、相続人がいない本件では、Bが遺贈を放棄した場合は、Aが特段の意思表示をしていない限り、相続人と同一の権利義務を有する包括受遺者Cに帰属するものと考えられる、というものです。

 しかし、本問では、あくまで「甲土地」を目的にした特定遺贈であり、相続人も存在するため、G及びHが遺贈を放棄したことで、その持分が他の受遺者Iに帰属するという法律構成には無理があるといわざるを得ません。

 よって、AからIへの遺贈を登記原因とする所有権全部の移転登記は、実体に即した登記とはいえず、その申請はできないものと考えます。

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koizumi  2015-07-06 19:12:20

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