司法書士の勉強中に発生する疑問を解決する質問広場

/平成27年本試験/総評 小泉嘉孝

koizumi 2015-07-07 21:36:14

平成27年の本試験総評として、内容の分析ではありませんが、私の感想と考えを書いておきます。

 


試験は易しい方が良いか?

今年は午前の択一が、とても易しい、解きやすかったという印象です。結果的にそうなってしまった、というよりは、明らかに意図的にそうしたんだなぁと感じました。

では、なぜでしょう?

もちろん本当のところは試験委員の方に聴いてみないとわかりませんが、一つは受験者数の減少と関係があるのかもしれません。

試験内容を易しくすることで、受験するレベルに早く辿り着きやすくなる、結果として受験者を多く確保できるようになる、ということでしょうか。

受験者数が減りつつ、合格率を維持すれば、合格者数は当然減少する。逆に今までどおりの合格者数を確保すると質が低下する。

そこで、一定数の受験者を確保し、新たな司法書士を生み出すことは、試験委員の役割であることは確かですが、この「試験内容を易しくする」という手段は、ベストな選択ではないというのが、私の考えです。

試験の難易度とその資格者の地位及び評価は比例しているのが原則です。そして、地位と社会的評価の向上は、業務の幅を拡大し、司法書士がより多くの場面で活躍できるようになる。結果として多くの人を救い、喜んでもらえることになります。

これまでも簡裁代理権獲得を狙う時代は、憲法を科目に取り込み、かつ、いきなり推論問題中心でスタートさせました。また、その数年前から、民法だってこんなに深いところまでやってます、とばかりに推論問題もガンガン出題してきたわけです。

ある意味それは見事成功し、司法書士には簡裁代理権取得の道が認められ、丁度債務整理の需要が集中したこともあり、社会的に一気に認知度を上げました。

最近では、それも落ち着き、これからの新しい方向性として、成年後見や財産管理及びこれに伴う民事信託の分野を拡大していこうというもの、あるいは家事代理、つまり家庭裁判所における代理権の取得を目指そうというものがあげられます。

試験の傾向とは、そういう時代の流れ、目指すべき方向性によって、一定の影響を受けているものであることは否定できない事実です。

しかし、どの方向に進むにしても、やはり地位の向上と社会的評価は、その前提条件みたいなものなので、難易度を下げるというのは極力避けるべきだと思います。

私がインプット講義を無料公開という形で実施しようと考えたのも、この事が一つあります。ライバルが増加して困るじゃないかという意見もあるでしょうが、私たちにとって究極の目的は、単に資格取得ではなく、自分の仕事を通じていかに多くの人に喜んでもらえるか、という所を軸に考えるべきです。そうすると多くの人がこの司法書士合格を目指し、競争が高まるということは、先に述べたとおり地位の向上と業務の拡大に繋がり、必ず将来的に良い結果をもたらすと考えたからです。

競争自体を否定的に考える教育論もあるようですが、互いに競い合うというのは、ある意味人間の本能的なものであるし、より良いものを生み出していく重要な要素であると私は思っています。大切なのは、その競争の原点となるものが、向上心なのか単なる独占欲なのかという違いです。

そして、試験の見直しは、午前科目の難易度の調整よりも他に課題はあるのではないということです。その最たるものは、時間配分です。記述式試験のボリュームが拡大する中で、午後の試験時間3時間は妥当なのかという議論は毎年のようにされています。「迅速な事務処理」というのも大切な要素ではあるけれど、もう限界に達しているように思われます。運良くヒラメキが訪れたか否かではなく、ある程度頭の中をぐるぐる回して答えを出す、記述式には特にそういう要素、つまり、自分の法律知識を使いこなすということが試される試験だといえます。だからこそ、一定の「考える時間」が与えられるべきです。

今回の商登法の記述で、株式交換で子会社が親会社の株式を取得することになると相当な時期に処分をしなければならなくなるから、あらかじめ自己株式の消却を行うなんていうのは、まさに会社法全体に頭が回っていて、これを使いこなせていなければ正解できない問題ですから、すごく良い問題だと思うんです。しかし、瞬間的に思いつく内容ではない。やっぱり頭をぐるぐるさせる時間が欲しいわけです。

午後の択一では、専門分野(不動産登記・商業登記)についてマニアな問題を織り交ぜ、全体のバランスをとったという見方もあるかもしれませんが、そういう方向ではなく、やはり、法律知識を使いこなすことができるか否かで実力の差が出るような問題を増やすという形で難易度を維持しつつ、一方で試験時間について工夫して欲しい、それが将来の司法書士界全体にきっと良い影響を与えるというのが、私の考えです。

講師 小泉嘉孝




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koizumi 2015-07-07 21:42:33

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