司法書士の勉強中に発生する疑問を解決する質問広場

/どうやって覚えるか?②/小泉嘉孝

koizumi 2015-07-25 18:10:05


 昨日やった会社法の問題を今日また間違う・・・。

 なんでこんなに直ぐ忘れてしまうのか?
 
 一方で、何十年も前の幼い頃の体験が、ずっと記憶に残っていることもありますね。
 ほんとに頭の中ってどうなってるでしょう?

 私にも、忘れられない小さい頃の思い出があります。
 今日は、そんなエピソードの一つを紹介しましょう。


 

 

尊敬する人は?
「両親」という答えが、一昔前の甲子園高校球児の定番でした。

ただ、私は両親を大切には思っていますが、「尊敬」という対象には挙がってきません。

ところが、幼い頃、母親の隠れた才能を垣間見る出来事が起こります。
これが小泉家で今も語り継がれる「やまびこ事件」です。

私の通う小学校では、毎月「図書便り」という新聞のようなものが配布されていました。
今月はこんな本が入りましたとか、この本は良かったよという生徒の感想などが掲載された、
図書室からの可愛いお便りです。

それがある時、この「図書便り」に何か名前を付けようということになって、
全校生徒から募集することになったのです。

そこで、私が考えたのは「アマゾン」。
当時、「仮面ライダーアマゾン」の変身ベルトを腰に巻いていたので。

しかし、それを見た母親は、即座に却下。
図書便りにまったく合っていないと・・・。

そう言った母親が、台所でタマネギを切りながら、
急に「いいのが思いついた!」と言うのです。

それが「やまびこ」。

やまびこって、あの「ヤッホー」の?
そう、その「やまびこ」。

「なんで?」
「本はね、読んだ人に返ってくるから。」

・・・・????・・・・
当時小学校1年生であった私には、まったく意味がわかりません。

しかし、そんなネーミングに始めから興味はなく、まぁそれでいいやと思い、
「やまびこ」とだけ書いて提出しました。

そして、1カ月ほどたったある日、図書室の壁にその結果が大きく張り出されたのです。

図書便りの新しい名前が決まりました。
「やまびこ」です。

わぉ!
もう、ビックリです。

ところが、もっと驚いたのが、そこに書いたあった理由です。
なぜ、先生がそのやまびこを選ばれたのかの理由。

「本というのは、読んで空想した体験、その時の気持ち、
そして、そこから学んだこと、
そのすべてが、また自分に返ってくるからです。」

・・・う~ん・・・そう書かれても、まだピンとこない私でしたが(笑)、
とにかく先生のコメントと母親の発想が、同じだったということに
ただ驚くばかりでした。

学生時代から落ちこぼれであった母ですが、
どこにそんな教養が備わっていたのだろうと、
いまでも忘れられない思い出です。

そして、この「やまびこ」を選ばれた担任の先生が、
新しくクラス替えになる時にこう仰ったのです。
「最後に、みんなが今の成績を簡単に伸ばす方法を教えよう。」
「誰にでもできるし、ガリ勉になる必要もない。」

もちろん、僕らは食いつきまくりです。

「それはね、これからどの先生が君らの担任になったとしても、
その話してる先生の顔を見て、うん、うんって頷くことだ。」
「たった、それだけでいい。」

またもや私は、・・・・????・・・・。

「もしこれを続けることができたら、
その先生はいつも君のことを見ながら授業をしてくれるはずだ。
それは君のために用意された、とっておきの授業だ。
そして、君はその先生の言葉にまた大きく頷く。
すると、先生は嬉しくなって、もっともっと楽しい授業をしたくなる。
もうそうなったら、成績なんて勝手に伸びていくもんだ。」

もちろん、今の私なら、このアドバイスに故・児玉清さんのごとく、
「その通り‼」と叫びたくなります。

しかし、私がこれを強く実感したのは、その数年後のことになります。

5年生になった私は、いわゆる「塾」と呼ばれるものに通い始めます。
そこに国語の授業があって、まだ若い先生でしたが、とても熱心な先生でした。

その先生は授業の始めに10分ほど本を読んでくださいました。
きっと、塾といえども単なる「受験テクニック」だけでなく、
本を読む楽しさや大切さをみんなに知ってもらいたい
という信念があったのでしょう。

しかし、そんなことは塾に求めていないと反対する親もいて、
それを吹き込まれている子供達は眠っていました。
ところが私にとっては、それが一番楽しみな時間だったのです。
先生のセレクトされる本は、確かにどれも面白かった。

その時、ふとあの担任の先生に教わった話を思い出したのです。
先生の顔を見て・・・頷く。
実際、その先生の授業は思わず頷きたくなる内容が
盛りだくさんだったのですが。

そして、これを実際に始めてみると、      
・・・これは本当でした。

先生は、今、自分に語りかけているんだ!
それは小学生の私にもはっきりとわかるものであったし、
先生もいきいきと授業をされていました。

ところが、その後事情があって、私は1年でその塾をやめることに
なってしまったのです。

そこで、母親とともに先生に挨拶に行きました。
すると、先生は話を聞いた途端、ポロポロと涙を流されたのです。

そして、こう仰いました。
「自分の授業には、批判もあったし、眠っている生徒を見ると自信をなくすこともあった。
でも、いつもこちらを見て、うん、うんって頷いてくれる小泉くんがいたから、
それが嬉しくて頑張れた。
今までありがとう。」

帰りの電車で、母親に担任の先生に教えて頂いた話をしました。
すると母はこう言いました。

「それはとても良いことだから、これからも続けなさい。
でも、先生が本当に伝えたかったのは、成績を伸ばす方法ではないと思うよ。

いくら不平や不満を言ったところで、実は何も得られていない。
それより、相手の人に喜んでもらうことを考えた方が、
ずっと近道で多くのことが得られる。
そういうお話だったんじゃないかなぁ。

でも、そのためには、その人が何を一番大切にしているのか、
そこに気づいてあげる心がなければできないし、
そういう人の気持ちというのは、頷くという小さなことでも、
相手にはちゃんと伝わるということだろうね。

そしたら、きっと相手の人は、その喜びを何倍にもして
また自分に返してくれる。

先生は、それを分かって欲しかったんだと思うよ。」

毎年、甲子園に夏がやってくると、
この「やまびこ事件」が私の頭の中を駆け巡ります。

講師 小泉嘉孝

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