司法書士の勉強中に発生する疑問を解決する質問広場

/平成27年 6問 オについて

kaz1116 2016-01-11 15:44:09

A所有の甲土地をAから賃借したBがその対抗要件を具備する前に、CがAから甲土地につき抵当権の設定を受けてその旨の登記をした場合において、Bが、その後引き続き賃借権の時効取得に必要とされる期間、甲土地を継続的に使用収益したときは、Bは、抵当権の実行により甲土地を買い受けた者に対し、甲土地の賃借権を時効取得したと主張することができる。

答えは誤りなのですが、民法163条により時効取得できないのでしょうか?
理由が分かりません。
よろしくお願いいたします。

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この問題については、両論があるところで、最高裁で争われました。


以下引用

民事・抵当権設定後に占有を始め賃借権の取得時効に必要な期間全てが経過した場合時効取得者は,抵当権実行による競落人に賃借権を対抗できるか・最高裁平成23年1月21日判決】

質問:裁判所の競売手続きで,土地を取得したのですが,その土地の上に建物が建っています。建物所有者(Y)に対して,建物を撤去して土地を明け渡すよう請求したのですが,Yは「抵当権の設定登記後に占有を始め,時効取得に必要な期間が経過したことにより借地権を時効取得したので,競売で土地を取得した者に対しても,対抗要件がなくても借地権を主張できる。」と反論して立ち退きを拒否しています。建物の撤去を請求できるのでしょうか。



回答:Yの主張は誤っています。判例も「不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に,当該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合,上記の者は,上記登記後,賃借権の時効取得に必要とされる期間,当該不動産を継続的に用益したとしても,競売又は公売により当該不動産を買い受けた者に対し,賃借権を時効により取得したと主張して,これを対抗することはできない。」(最判平23.1.21)としています。Yの主張は,所有権の時効取得について「第三者のなした登記後に時効が完成した場合においては,その第三者に対しては,登記を経由しなくとも時効取得をもつてこれに対抗しうる」という判例(最判昭36.7.20)があり,その判例の結論を抵当権と借地権の関係にもあてはめたものと考えられますが,抵当権の場合とは異なるとされています。

解説:
1  抵当権の設定登記と賃借権の関係についての原則
(1)「抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は,当該抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ,当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不動産を買い受けた者に対し,賃借権を対抗することができないのが原則」です(民事執行法59条1項,2項,国税徴収法124条1項。最判平23.1.21)。これは,抵当権を設定する者は,その不動産の担保価値を把握するため抵当権設定時の不動産の利用関係を調査するのですが,その際,抵当権設定登記の時点で抵当権に優先する権利,例えば賃借権があるか否かを対抗要件の有無で判断できることにしないと,担保価値の把握ができなくなってしまうためです。

(2)ところで,「土地賃借権の時効取得については,土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,かつ,それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは,民法163条に従い土地賃借権の時効取得が可能であると解されています(最判昭43.10.8)。
  そして,前記(1)のことは,「抵当権の設定登記後にその目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても,異なるところはありません(最判平23.1.21)。抵当権設定権利者は,抵当権を設定する時点での交換価値の把握をして抵当権を設定するわけですから,その登記後の権利関係の創設により抵当権の把握した交換価値が変化することは認めると,抵当権を設定した目的が害されてしまうため,判例の結論は当然といえます。

(3)以上からすると,本件では,Yは,抵当権の設定登記後に賃借権を時効取得したのですから,Yは本件の賃借権をもってあなたに対抗することはできない,と思われます。しかしながら,Yは「抵当権の設定登記後占有を始め,賃借権の時効取得に必要とされる期間,甲土地を継続的に用益するなどしてこれを時効取得した」と主張していることから,本件を単純な「抵当権の設定登記後に賃借権が時効取得された場合」と捉えることはできず,さらに考察を加える必要があります。時効取得という法律効果が「原始取得」の一種であると解釈されているからです。原始取得というのは,従来の権利者の権利を引き継ぐ(これを承継取得と言います)のではなく,従来の権利者の権利とは無関係に独立して新たに権利を取得することを言います。原始取得の場合には,従来の権利者が負担している抵当権などの物権の影響を受けない(自己の権利を対抗できる)と解釈されています。時効取得者は権利者との取引行為に基づいて権利を取得するのではなく,継続した事実状態を根拠として権利を取得するからです。
  抵当権の設定されている土地について,賃借権を時効取得したということを主張して対抗要件なく賃借権を抵当権者にも対抗できるのではないか,という疑問が生じます。所有権の時効取得の場合は対抗要件がなくても(所有権移転登記を受けていなくても),当該目的不動産に登記を取得している第三者に対抗できることから同視できないか,という疑問です。

2  所有権の時効取得の事例との比較
(1)本件で,「Yは,抵当権の設定登記後に占有を始め,賃借権の時効取得に必要とされる期間,甲土地を継続的に用益するなどしてこれを時効取得した」とのことです。
  この点,所有権の時効取得の事例において,同様の問題を扱った判例(最高裁昭36年7月20日判決)があります。同判例は,「第三者のなした登記後に時効が完成した場合においては,その第三者に対しては,登記を経由しなくとも時効取得をもつてこれに対抗しうる」とします。

(2)同判例の趣旨については,以下のように考えます。
① 「時効が完成しても,その登記がなければ,その後に登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗しえない」ことを前提としつつも,
② 「第三者のなした登記後に(占有を始め)時効が完成した場合」は,第三者はもはや完全な所有者となるのであって,この場合は「同一所有者のもとで時効期間が進行し経過した場合」と同視できるところ,
③ 「同一所有者のもとで時効期間が進行し経過した場合」においては,所有者に対しては登記なくして時効取得を対抗することができる(大審院大正7年3月2日判決)。
④ したがって,「第三者のなした登記後に時効が完成した場合においては,その第三者に対しては,登記を経由しなくとも時効取得をもつてこれに対抗しうる」
  すなわち,同判例は,「同一所有者のもとで時効期間が進行し経過した場合」においては,所有者に対しては登記なくして時効取得を対抗することができる(上記③)という見解を前提としているのです。

(3)では,「Yは,抵当権の設定登記後,賃借権の時効取得に必要とされる期間,甲土地を継続的に用益するなどしてこれを時効取得した」という本件に,同判例を援用することができるのでしょうか。
  この点,否定すべきであると解釈します。なぜなら,同判例は,「同一所有者のもとで時効期間が進行し経過した場合」においては,所有者に対しては登記なくして時効取得を対抗することができる(前記③)という見解を前提としているところ(前記(2)),同見解(前記③)の根拠は,従前の所有者と時効取得者の関係は,時効取得者が所有権を取得する反面,従前の所有者が所有権を失うという関係に着目すると,権利変動の当事者(前主と後主)の関係(この関係においては,後主が前主に権利変動を主張するのに対抗要件は不要とされます。)に類似することにあります。しかしながら,本件では,抵当権対賃借権が問題となるところ,抵当権は目的物の価値を把握するのみで用益を内容とはしないため,抵当権と賃借権は両立し,抵当権者と賃借権の時効取得者との間では権利の得喪は生じません(権利の得喪〔ないし制限〕が生じるのは,所有者と賃借権の時効取得者との間です。)。すなわち,抵当権者と賃借権の時効取得者との間には,権利変動の当事者(前主と後主)の関係に類似する関係が生じるわけではないのです。したがって,本件には,同判例の前提とする見解が妥当せず,そのため同判例の見解も妥当しないといえるのです。
  前掲最高裁平成23年1月21日判決は,本件と同様の事案において,競売・公売の買受人に対し賃借権の時効取得を対抗することはできないとしましたが(判旨については,次項にて紹介します。),これは上記のような考え方に立っているものと思料いたします。

3  賃借権の時効取得と競売・公売の買受人への対抗 ~ 抵当権の設定登記時から時効取得に必要な期間が経過している場合
(1) 最高裁平成23年1月21日判決は,「不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に,当該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合,上記の者は,上記登記後,賃借権の時効取得に必要とされる期間,当該不動産を継続的に用益したとしても,競売又は公売により当該不動産を買い受けた者に対し,賃借権を時効により取得したと主張して,これを対抗することはできないことは明らかである。」としました。

(2)そして,同判決は,「所論引用の上記判例は,不動産の取得の登記をした者と上記登記後に当該不動産を時効取得に要する期間占有を継続した者との間における相容れない権利の得喪にかかわるものであり,そのような関係にない抵当権者と賃借権者との間の関係に係る本件とは事案を異にする。」として,最高裁昭和36年7月20日判決の理論は本件には当てはまらないとしました(前記2(3)参照)。所有権の時効取得の場合に,原始取得であるから時効完成時の従来権利者の権利を排除することができると考えることと,賃借権の時効取得の場合とは同様には考えることはできない,という結論になります。
  所有権が排他的支配をすることができる絶対性を有する物権であるのに対し,賃借権が当事者間の賃貸借契約に基づいて発生する債権であることが影響していると考えることもできます。債権というのは,元来,債権者と債務者との間で主張することしかできないのが原則になるからです(賃借権は排他性がないので抵当権付き賃借権の存在も矛盾しない。所有権の時効取得の場合は,排他性から抵当権者に取得時効・原始取得を主張できることになります)。
  判例上,抵当権者と賃借権者の優劣は,それぞれが第三者対抗要件を具備した時期の先後によって決することと解釈されていますが,本件では,抵当権者の抵当権設定登記の方が,賃借権者の第三者対抗要件取得(引渡しを受けた時期)よりも先だったのですから,当然に抵当権者が優先すると考えることは,対抗要件主義に立てば自然な解釈ということができます。
  時効の制度趣旨は,公平上権利の上に眠る者を保護しないというものであり,抵当権者は所有者と違い元々目的物の占有を有しないものですから,第三者が占有している状態を放置していたとしても自らの権利を放置し権利主張を怠っていたというわけではありませんので時効の責任を負わせることはできないと考えることもできます。いずれにしても,所有権の二重譲渡があったような事例と,本件の様に,抵当権者と賃借権者の優劣が問題となるような事案では同列に論じることはできないということになります。

引用終了

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senpai 2016-01-11 17:27:26

新銀座事務所からの引用です。

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senpai 2016-01-11 17:28:38

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